Dirichlet指標についてのまとめノートです。結構詳しく書けてると思うのでDirichlet指標について勉強していたら参考にしてみてください。
参考文献
(1) Multiplicative Number Theory (Graduate Texts in Mathematics 74)(2) 素数とゼータ関数 (共立講座 数学の輝き)
一般の有限アーベル群上の指標については次の記事を参照
mathnote.info
Dirichlet 指標の定義
Dirichlet指標とは乗法群 の指標を数論的関数として考えたものです。具体的には次のように定義されます。
を整数とする。
が次の三つの条件を満たすとき
は mod
のDiriclet指標という。
(1) は完全乗法的な関数である
(2)
(3) ならば
一つ例として、を
\begin{align*}
\chi_0 (n) :=
\begin{cases}
1 \quad ( (n,q)=1)\\
0 \quad ( (n,q)\;{>}\;1)
\end{cases}
\end{align*}とするとこれはmod のDirichlet指標になっています。この指標をmod
の自明指標と呼びます。自明指標でないものを非自明指標と呼びます。
mod の指標を考えることは乗法群
の指標を考えることと同値です。実際、mod
のDirichlet指標
を与えたとき
を
\begin{align*}
\hat{\chi}(n+q\mathbb{Z}):=\chi (n)
\end{align*}と置けば は
の指標になります。また逆に
が与えられたとき
\begin{align*}
\chi (n)=
\begin{cases}
\hat{\chi}(n+q\mathbb{Z}) \quad &( (n,q)=1)\\
0 \quad &( (n,q)\; {>} \;1)
\end{cases}
\end{align*}と定義すれば mod のDirichlet指標になります。したがって一般に群の指標に対して言えることはDirichlet指標にも言えることがわかります。
基本的な性質
ここで紹介する内容はすべて有限アーベル群の指標について - プライムスにて証明してあります。そのため、簡単なものを除いて証明は省くことにします。がmod
のDhirichlet指標なら
が成り立つ。
証明 合同式論におけるオイラーの定理 (数論) - Wikipediaより
\begin{align}
n^{\varphi (q)} \equiv 1 \pmod{q} \notag
\end{align}が成り立つ。したがってDirichlet指標の条件より
\begin{align}
\chi (n)^{\varphi (q)} =\chi (n^{\varphi (q)})=\chi (1)=1 \notag
\end{align}が成り立つ。したがって主張が成立する。(QED)
mod のDirichlet指標全体は関数の積で自明指標を単位元とする群をなす。さらに群として
と同型である。
証明 有限アーベル群の指標について - プライムスを参照
をmod
のDirichlet指標とする。このとき
\begin{align*}
\sum_{n=1}^{q-1}\chi (n) =
\begin{cases}
\varphi (q) \quad &(\chi =\chi_0 ) \\
0 \quad &(\chi \neq \chi_0)
\end{cases}
\end{align*}が成り立つ。
証明 のときは明らか。
とすると
かつ
となる整数
が取れる。このとき
\begin{align*}
\chi (a) \sum_{n=1}^{q-1}\chi (n) =\sum_{n=1}^{q-1}\chi (n)
\end{align*}であるから より主張が従う。(QED)
自然数 に対して
\begin{align*}
\sum_{\chi} \chi (n) =
\begin{cases}
\varphi (q) \quad &(n\equiv 1 \pmod{q} ) \\
0 \quad &(n \not \equiv 1 \pmod{q})
\end{cases}
\end{align*}が成り立つ。ここで和はmod のDirichlet指標全体を走る。
証明 有限アーベル群の指標について - プライムスを参照
準周期性と導手
Dirichlet指標が一般の指標と理論的に異なる点として原始指標の存在が挙げられます。ここではDirichlet指標の準周期、導手、原始指標などを定義しその性質を証明します。をmod
のDirichlet指標とし、
を自然数とする。
かつ条件
\begin{equation}
(nm,q)=1,n\equiv m \; (\mathrm{mod}\; q_1) \Rightarrow \chi(n)=\chi(m) \label{con1}
\end{equation}が成立するとき は
の準周期(Quasi period, Induced residue class)であるという。
の準周期のうち最小のものを導手(Conductor)という。
全てのmod のDirichlet指標に対して
は自明に準周期となります。Dirichlet指標はより小さい準周期を持つことがありますが、後でいくらでも例が挙げられるのでここでは例示は控えることとします。
を mod
のDirichlet指標とし
を
の約数とする。このとき次の二つは同値である。
は
の準周期である。
- 条件
\begin{equation}
(n,q)=1,n\equiv 1 \; (\mathrm{mod} \; q_1)\Rightarrow \chi(n)=1 \label{con2}
\end{equation}が成立する。
証明
( ) 条件 \eqref{con1}を
として適用すればよい。
( )
と仮定する。このとき
であるから
がわかる。したがってある整数
で
となるものが取れる。Dirichlet指標の定義と条件 \eqref{con2}より
\begin{equation*}
\chi(n)=\chi(n)\chi(mm')=\chi(nm')\chi(m)=\chi(m)
\end{equation*}が得られる。したがって\eqref{con1}が成立するので は
の準周期である。(QED)
次に二つの準周期に対して、その最大公約数も準周期になることを示します。
を整数とし,
とする。このとき
ならある整数
が存在して
\begin{equation*}
n=1+uq_1+vq_2, \; (1+uq_1,q)=1
\end{equation*}が成り立つ。
証明 と整数の積に分解する。ここで
は
を素数として
\begin{equation*}
p|q \mathrm{かつ}p|q_2 \Leftrightarrow p|r_1, \; (q_2, r_2)=1
\end{equation*}を満たすようにとれる。このとき であるからEuclidの互除法よりある
が存在して
\begin{equation*}
n=1+xr_2q_1+yq_2
\end{equation*}と表すことができる。明らかに は
と互いに素である。さらに
であることから
は
と互いに素であり、従って
と
も互いに素である。もし素数
が
を割り切るなら
の取り方から
は
を割り切るため
に矛盾する。よって
は
と互いに素、つまり
と
が互いに素であることがわかる。以上より
とすればLem8の主張を満たす。(QED)
をmod
の指標とし
を
の準周期とする。このとき
も準周期である。
証明 Prop7より条件\eqref{con2}が成立することを確かめればよい。,
とするとLem8より
\begin{equation*}
n=1+uq_1+vq_2,\; (1+uq_1,q)=1
\end{equation*}となる整数 が取れる。
が
の準周期であることより
\begin{align*}
\chi(n)=\chi(n-vq_2)=\chi(1+uq_1)=1
\end{align*}となる。従って は
の準周期となる。(QED)
をmod
のDirichlet指標とし、その導手を
とする。もし
が
の準周期なら
は
で割り切れる。
証明 Prop9より も
の準周期である。
は最小の準周期なので
\begin{align*}
q^{\ast} \le (q^{\ast},q_1) \le q^{\ast}
\end{align*}すなわち が従う。よって
がわかる。(QED)
原始指標を定義します。
をmod
のDirichlet指標とする。
の導手が
のとき
を原始指標と呼ぶ。
Dirichlet指標に関連する数論の重要な結果のほとんどが原始指標に対してのみ綺麗な形を撮ります。例えばDirichletのL関数の関数等式は原始指標に対してのみ成立します。
原始指標の特徴付け
\begin{align}
\chi (n)=
\begin{cases}
\chi_1(n) \quad &( (n,q)=1) \\
0 \quad &( (n,q)>1)
\end{cases} \label{Dirichlet ch1}
\end{align}と定義すると、これはmod
ここでは原始指標を\eqref{Dirichlet ch1}を用いて特徴づけ、最後に全てのDirichlet指標がただ一つの原始指標から生成されることを示します。
を自然数とし
とする。このとき
かつ
となる
が存在する。
証明 自然数 を
\begin{align*}
t := \prod_{\substack{p|q \\ p \nmid n,q_1}}p
\end{align*}とする。ここで は素数であり空積は1であるとする。
と置けば明らかに
が成立。以下、
を示す。
と
がどちらも素数
で割り切れたとする。
(のとき) このとき
の定義より
となるが、
であることと
の定義より
は
を割り切らない。したがって
となる。しかしこれは
に矛盾する。
(のとき) このとき、もし
なら
の定義より
となり矛盾する。したがって
である。すると
であることと
の定義より
となりやはり
に矛盾。
したがってと
をどちらも割り切るような素数は存在しない。すなわち
が成立する。(QED)
法が同じであるような相異なるDirichlet指標は同じ指標を生成しない。すなわち がmod
のDirichlet指標で、ある
の倍数
に対して
\begin{equation*}
\chi_1(n) =\chi_2(n)\quad (\forall (n,q)=1)
\end{equation*}を満たすなら である。
証明 のときは
である。
のときLem12より
\begin{equation*}
(m,q)=1,\; n\equiv m \; (\mathrm{mod}\; q_1)
\end{equation*}となる整数 が存在する。したがって仮定より
\begin{equation*}
\chi_1(n)=\chi_1(m)=\chi_2(m)=\chi_2(n)
\end{equation*}が成立。従って である。(QED)
準周期とは次のように関係します。
をmod
のDirihclet指標とし
とする。このとき次の二つの条件は同値。
はmod
のDirichlet指標から生成される。
は準周期
をもつ。
証明 まず がmod
のDirichlet指標
から生成されるとする。このとき
かつ
ならば
\begin{align*}
\chi (n) = \chi_1(n)= \chi_1(m)=\chi (m)
\end{align*}となるから\eqref{con1}が成立。
逆に\eqref{con1}が成り立っているとする。このとき を
のときは
のときは
かつ
のときは補題9で存在が保証される
をとって
と定めると、仮定より は
の取り方によらずwell-definedに定まる。したがって
はmod
のDirichlet指標となる。明らかに
は
を生成するDirichlet指標になっている。(QED)
全てのDirichlet指標は導手を法とするただ一つの原始指標から生成される。特にDirichlet指標 が原始指標であることは、
が相異なるDirihclet指標からは生成されないことと同値である。
証明
(原始指標から生成されること) をmod
のDirichlet指標とし、その導手を
とする。このときProp14よりmod
のDirichlet指標
で
を生成するものが存在する。もし
がより
なる準周期をもつなら
も
を準周期に持つことになり矛盾する。したがって
は原始指標でなければならない。
(一意性) まずmod のDirichlet指標
がmod
の原始指標
から生成されているとき、
の導手は
であることを示す。
を
の導手とし、
を生成するmod
のDirichlet指標を
とする。
がmod
のDirichlet指標から生成されていることからProp14より
は
を準周期に持つ。よってCor10より
がわかる。今仮定より
\begin{equation*}
\chi_1(n)=\chi^{\ast}(n) \quad (\forall (n,q)=1)
\end{equation*}が成り立っているが、この等式を全ての に対して示す。
とするとLem12から
\begin{equation*}
(m,q)=1,\; n\equiv m \; (\mathrm{mod}\; q_1)
\end{equation*}を満たす整数 が存在する。さらに
であることから
\begin{equation*}
(n,q^{\ast})=1, \; n\equiv m \; (\mathrm{mod} \; q^{\ast})
\end{equation*}が言える。したがって
\begin{equation*}
\chi_1(n)=\chi_1(m)=\chi^{\ast}(m)=\chi^{\ast}(n)
\end{equation*}が示される。これは が
から生成されることを示しているが、
の導手は
であるから
でなければならない。従って
の導手が
であることが示された。これとProp13を合わせれば
を生成する原始指標が一意に決定されることがわかる。(QED)
Dirichlet指標の積分解と導手
有限アーベル群の指標に関する記事の中で次の性質を示しました。と素因数分解されるとする。このとき任意のmod
のDirichlet指標
に対してmod
のDirichlet指標
が一意に存在して
\begin{equation*}
\chi(n)=\chi_1(n)\cdots \chi_t(n) \quad (\forall n\in \mathbb{Z})
\end{equation*}が成立する。
証明は有限アーベル群の指標について - プライムスを参照してください。ここではこの積分解と導手の関係を紹介します。
を互いに素な整数、
をそれぞれmod
のDirichlet指標、
をそれぞれ
の導手とする。このときmod
の Dirichlet指標
を
\begin{equation*}
\chi(n):=\chi_1(n)\chi_2(n)
\end{equation*}と定めると の導手は
で与えられる。
証明 まず が
の準周期であることを示す。
とすると
が
で成立。よって
それぞれの準周期性より
\begin{equation*}
\chi(n)=\chi_1(n)\chi_2(n)=1
\end{equation*}が成り立つ。したがって は
の準周期である。
次に の導手を
と置くと、
が
の準周期であることを示す。特に
のときに示せば
でも同様に示せる。
とする。
であるから中国剰余定理により
\begin{equation*}
m\equiv n \; (\mathrm{mod}\; q_1), \; m\equiv 1 \; (\mathrm{mod}\; q_2)
\end{equation*}を満たす整数 が取れる。
の取り方より
が成立。従って
がわかる。さらに
であることより
であり、従って
が得られる。仮定より
であり、さらに
であるから
が得られる。すなわち
が得られる。したがって
が準周期
を持つことより
\begin{equation*}
1=\chi(m)=\chi_1(m)\chi_2(m)=\chi_1(n)\chi_2(1)=\chi_1(n)
\end{equation*}が成立。以上より が
の準周期であることが示された。
もし なら
の少なくとも一方は
より小さくなる。しかしこれは導手の最小性に矛盾する。したがって
となり、再び導手の最小性より
がわかる。(QED)
Thm18より次の系が簡単に示せます。証明は省略します。
とし、
をそれぞれmod
のDirichlet指標とする。
に対し次は同値。
はmod
の原始指標
はそれぞれmod
の原始指標
おわりに
Dirichlet指標について学びました。原始指標は少し複雑ですが素数論の根幹を成す重要な概念です。