前回に引き続きHardy-Littlewoodの円周法を学びます。
前回の記事はこちら↓↓
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参考文献
The Hardy-Littlewood Method (Cambridge Tracts in Mathematics)前回の復習
考察対象は自然数 を\begin{align*}
n=m_1^k+\cdots +m_s^k
\end{align*}と 個の 乗数で表す方法についてです。自然数 を取りを
\begin{align*}
R(n)=\# \{ (m_1,\dots ,m_s)\in \mathbb{N}^s | n=m_1^k+\cdots +m_s^k \}
\end{align*}と定め、さらに に対して
\begin{align*}
f(\alpha )=\sum_{m=1}^Ne(\alpha m^k) \quad (\alpha \in \mathbb{R})
\end{align*}と定めます。ここで です。このとき前回の記事において
\begin{align}
R(n)=\int_0^1 f(\alpha )^s e(-\alpha n)d \alpha \label{rev1}
\end{align}が成立することを確かめました。最終的にこの公式から、 なら
\begin{align*}
R(n) \ge 1 \quad (n\to \infty )
\end{align*}を示すことが目標です。今回は右辺の積分についてより深い議論をします。基本的な流れは
- 積分を簡単なところ(Minor arc)と難しいところ(Major arc)に分ける
- 簡単なところはWeylの不等式やHuaの補題などを用いてさらっと評価する
- 難しいところは の挙動を詳しく調べ漸近公式を証明する。
というような感じです。
どう積分を分割するか
基本的な流れはふむふむなるほどと納得するとして、実際どう\eqref{rev1}を難しいところと簡単なところに分けるかは議論が必要です。そして残念ながらどう分けるかのモチベーションはあまり詳しく書かれていないみたいです...。したがって以下の議論は私の想像によるものになります。間違っている部分やもっと良いアイデアがあるかもしれないので、お気づきの点がありましたらご指摘ください。まずモチベーションのために二つ補題を用意します。これらの補題は実際に の議論において用いることになります。
とする。このとき任意の正の数 に対し、ある自然数 と と互いに素な整数 が存在して
\begin{align*}
\Big{|} \alpha - \frac{a}{q}\Big{|} \le \frac{1}{qX}\le \frac{1}{q^2}
\end{align*}が成立。
証明 インテジャーズさんの記事ディリクレの近似定理 - INTEGERSなどを参照。
実数 と既約分数 は
\begin{align*}
\Big{|}\alpha - \frac{a}{q}\Big{|} \le \frac{1}{q^2}
\end{align*}を満たすとする。このとき任意の に対し
\begin{align*}
f(\alpha ) \ll_k N^{1+\varepsilon}\Big{(}\frac{1}{q}+\frac{1}{N}+\frac{q}{N^k}\Big{)}^{1/2^{k-1}}
\end{align*}が成立。
証明 指数和に関するWeylの不等式 - プライムスを参照。
上記の記事内でも考えたようにWeylの不等式は十分小さい に対して*1
\begin{align}
N^{\nu} \le q \le N^{k-\nu} \label{rev2}
\end{align}のときに自明な評価と比べて良い評価を与えます。今、適当に を取ってきます。Dirichletの近似定理において と取ることで
\begin{align}
\Big{|} \alpha- \frac{a}{q}\Big{|} \le \frac{1}{qN^{k-\nu}} \quad (1 \le \exists q \le N^{k-\nu}, (a,q)=1 ) \label{rev3}
\end{align}となるのでWeylの不等式を\eqref{rev2}の右側の不等式を成立させながら用いることができます。したがって次は\eqref{rev2}の左側の不等式を成立させるように の取り方を制限する必要が出てきます。これを実行するために、あらかじめ なる有理数 で近似できる を除いておけば良いわけです。つまり に対して
\begin{align*}
\mathfrak{M}(q,a)=\{ \alpha \; | \; |\alpha -a/q| \le N^{\nu -k} \}
\end{align*}と定めて とすると\eqref{rev3}の不等式の下で
\begin{align*}
\Big{|} \alpha- \frac{a}{q}\Big{|} \le \frac{1}{N^{k-\nu}}
\end{align*}となるのでより でなくてはならないことがわかります。これで\eqref{rev2}の左側の不等式も手に入れることができ、Weylの不等式を意味あるものとして用いることができるようになります。
まとめると
Major arcとMinor arc
上述のモチベーションを数学的に定式化していきます。を固定し、に対し と定めます。十分小さい*2 を取りに対し
\begin{align*}
\mathfrak{M}(q,a)=\{ \alpha \in \mathbb{R}\; | \; |\alpha -a/q | \le N^{\nu -k} \}
\end{align*}と定義すると次が成立します。
(1) は互いに交わらない区間である。
(2) とおくと が任意の で成立。
証明 (1) なら自明なので と仮定する。相異なる既約分数 ,を を満たすようにとる。このとき主張を示すためには
\begin{align}
\Big{|}\frac{a_1}{q_1}-\frac{a_2}{q_2}\Big{|} >2N^{\nu-k} \label{mm1}
\end{align}を示せばよい。仮定より なので
\begin{align*}
\Big{|}\frac{a_1}{q_1}-\frac{a_2}{q_2}\Big{|} \ge \frac{1}{|q_1q_2|} \ge N^{-2\nu }
\end{align*}が成立。一方で仮定より
\begin{align*}
2N^{\nu-k} \le N^{2\nu -k}
\end{align*}でありが十分小さければ となるので\eqref{mm1}が成立する。したがって が従う。
(2) が十分小さければ のときは自明。したがって する。任意の に対し
\begin{align*}
N^{\nu-k} {<} \frac{a}{q}-N^{\nu-k} \; , \; \frac{a}{q}+N^{\nu-k} \le 1+N^{\nu-k} \
\end{align*}を示せばよい。二つ目の不等式は自明であり、一つ目の不等式は
\begin{align*}
\frac{a}{q}-N^{\nu -k} &\ge \frac{1}{N^\nu}-N^{\nu-k} \\
&=N^{\nu -k} \big{(}N^{k-2\nu}-1 \big{)} > N^{\nu -k}
\end{align*}となる。したがって題意が成立。(QED)
難しいところ(Major arc)と簡単なところ(Minor arc)を定義します。
上記の設定の下
\begin{align*}
\mathfrak{M}:=\bigcup_{\substack{1\le a \le q \le N^{\nu} \\ (a,q)=1}}\mathfrak{M}(q,a)
\end{align*}と定め、をMajor arcという。さらに をMinor arcという。
二点注意ですが、まず も もどう見てもintervalなのにarcと呼ばれているのは前回の記事で紹介したように歴史上の理由によるものです。また、今回はWaringの問題を対象及び上述の関数 を対象として議論しているためMajor arcとMinor arcはこの定義になりますが、問題や関数を取り換えることでその都度新たに適切なMajor arcとMinor arcが定義されます。
\eqref{rev1}における被積分関数が周期1であることとProp3より次が従います。
\begin{align*}
R(n)=\int_{\mathfrak{M}}f(\alpha )^se(-\alpha n )d\alpha +\int_{\mathfrak{m}}f(\alpha )^se(-\alpha n)d\alpha
\end{align*}
Minor arc上の評価
Minor arcの上での積分はモチベーションのセクションで少し議論したようにWeylの不等式を用いて評価することができます。途中で前回証明したHuaの補題を用いるので再掲しておきます。 と任意の に対して
\begin{align}
\int_0^1 |f(\alpha )|^{2^j} d\alpha \ll_k N^{2^j-j+\varepsilon} \quad (N\to \infty )
\end{align}が成立
Minor arcの上での積分は次のように評価されます。
と仮定する。このとき にのみ依存するある定数 が存在して
\begin{align*}
\int_{\mathfrak{m}}f(\alpha )^s e(-\alpha n)d\alpha \ll_k n^{s/k-1-\delta } \quad (n\to \infty )
\end{align*}が成立。
証明 明らかに
\begin{align*}
\int_{\mathfrak{m}}|f(\alpha )|^sd\alpha \ll n^{s/k-1-\delta }
\end{align*}を示せば主張が従う。を任意の正の実数とする。容易に
\begin{align}
\int_{\mathfrak{m}}|f(\alpha )|^s d\alpha \le \Big{(}\sup_{\alpha \in \mathfrak{m}}|f(\alpha )|\Big{)}^{s-2^k}\int_0^1|f(\alpha )|^{2^k} d\alpha \label{mi1}
\end{align}と評価でき、この右辺積分項はHuaの補題を として適用すれば
\begin{align}
\int_0^1 |f(\alpha )|^{2^k} d\alpha \ll_k N^{2^k-k+\varepsilon} \label{mi2}
\end{align}と評価できる。\eqref{mi1}の右辺 の項を評価するために任意の を取りDirichletの近似定理を に適用すれば なる整数 が存在して
\begin{align*}
\Big{|}\alpha - \frac{a}{q} \Big{|} \le \frac{1}{qN^{k-\nu}} \le \frac{1}{N^{k-\nu}}
\end{align*}が成立。の取り方より となることに注意すれば となる。したがって、もし なら に矛盾するので となる。 この に対してWeylの不等式を適用すれば*3
\begin{align*}
f(\alpha ) &\ll_k N^{1+\varepsilon /(s-2^k)}\Big{(}\frac{1}{q}+\frac{1}{N}+\frac{q}{N^k}\Big{)}^{1/2^{k-1}} \notag \\
&\le N^{1+\varepsilon /(s-2^k) -\nu /2^{k-1}}
\end{align*}が成立。 は任意だったので
\begin{align}
\Big{(}\sup_{\alpha \in \mathfrak{m}}|f(\alpha )|\Big{)}^{s-2^k} \ll N^{s-2^k +\varepsilon -s\nu /2^{k-1}+2\nu} \le N^{s-2^k+\varepsilon-\nu /2^{k-1}} \label{mi3}
\end{align}が得られる。\eqref{mi2} \eqref{mi3}を \eqref{mi1}に適用すれば
\begin{align*}
\int_{\mathfrak{m}}|f(\alpha )|^sd\alpha \ll N^{s-k-(\nu/2^{k-1}-2\varepsilon)} \le n^{s/k-1-(\nu /2^{k-1}-2\varepsilon )/k}
\end{align*}が得られる。が十分小さければ
\begin{align*}
\delta := \frac{\nu /2^{k-1}-2\varepsilon}{k} >0
\end{align*}となるので主張が証明された。(QED)
Prop5より次の公式が得られます。
のみに依存するある定数 が存在して に対し\begin{align*}
R(n)=\int_{\mathfrak{M}}f(\alpha )^se(-\alpha n) d\alpha +O_k(n^{s/k-1-\delta}) \quad (n\to \infty )
\end{align*}が成り立つ。
おわりに
次回「Major arcの計算」につづく。