プライムス

整数論を中心に数学の話題に触れるブログ

双子素数予想に関するErdősの結果


参考文献

Erdős. P. 1940 The difference of consecutive primes. Duke Math. J. 6, 438--441.
projecteuclid.org

素数の間隔の平均値

素数 pに対して p_+pの次の素数とします。このとき
\begin{equation*}
p_+-p=2
\end{equation*}を満たす素数 pを双子素数(の小さいほう)と呼びます。双子素数予想によると双子素数は無限に存在すると予想されていますが未解決です。双子素数予想は解けないので代わりに p_+-p の上からの評価を考えます。

 N \ge 2に対して区間 (N,2N]にある素数を下から順に p_1, \dots, p_rと書きます。このとき素数定理から
\begin{equation*}
r = \frac{N}{\log N}(1+o(1) ) \quad (N \to \infty)
\end{equation*}がわかります。特に任意の \varepsilon >0に対して Nが十分大きいとき
\begin{equation}
r > \frac{N}{\log N} (1-\varepsilon) \label{eq1}
\end{equation}が成立します。また (N,2N ]の素数の間隔を全て足し合わせると
\begin{equation}
\sum_{i=1}^{r-1} (p_{i+1}-p_i ) = p_r -p_1 < N \label{eq2}
\end{equation}がわかります。ここで \delta>0に対し
\begin{equation*}
p_{i+1}-p_i > (1+\delta)\log N \quad (i=1,\dots, r-1)
\end{equation*}が成立しているなら\eqref{eq1}から十分小さい \varepsilon>0と十分大きい N\ge2に対して
\begin{equation*}
\sum_{i=1}^{r-1} (p_{i+1}-p_i) >N
\end{equation*}が成立することが分かりますが、これは\eqref{eq2}に矛盾します。
従って任意の \delta >0に対して Nが十分大きければ
\begin{equation*}
p_{i+1}-p_i \le (1+\delta) \log N < (1+\delta) \log p_i
\end{equation*}が成り立つ i=1, \dots, r-1が存在します。従って特に次が成立します。

Theorem1

\begin{equation*}
\liminf_{p \to \infty} \frac{p_+-p}{\log p} \le 1
\end{equation*}

双子素数予想へのアプローチ

双子素数予想は自明に
\begin{equation*}
\liminf_{p\to \infty} (p_+-p) =2
\end{equation*}と同値です。もし
\begin{equation*}
\liminf_{p\to \infty}(p_+-p) < \infty
\end{equation*}がわかると明らかに
\begin{equation*}
\liminf_{p\to \infty} \frac{p_+-p}{\log p} =0
\end{equation*}です。一方で素数定理からはTheorem1が得られています。なので順当に考えると
\begin{equation}
\liminf_{p\to \infty} \frac{p_+ -p}{\log p} <1 \label{eq3}
\end{equation}を示すことが最初の目標になります。このような結果を最初に無条件で証明したのはPaul. Erdősです。本記事ではErdősによる\eqref{eq3}の証明*1について紹介します。

実際に\eqref{eq3}の証明を行う前に前述の値
\begin{equation*}
E_1 = \liminf_{p\to \infty} (p_+-p) \text{ 及び } E_2 = \liminf_{p\to \infty} \frac{p_+-p}{\log p}
\end{equation*}の評価の変遷を紹介。前述のとおり素数定理からは E_2 \le 1が簡単に導出でき、非自明な結果をいくつかピックアップすると E_2の方は
\begin{align*}
&E_2 < 1 \quad &&\text{(P. Erdős, 1940)}\\
&E_2< \frac{1}{2} \quad &&\text{(Bombieri, Davenport, 1965)}\\
&E_2=0 \quad &&\text{(Goldston, Pimtz, Yıldırım, 2009)} \\
\end{align*}E_1の方は
\begin{align*}
&E_1 < 70000000 \quad &&\text{(Y. Zhang, 2014)}\\
&E_1 \le 600 \quad &&\text{(J. Maynard, 2015)}
\end{align*}などがあります。現在の世界記録は E_2 \le 246だそうです。本記事で紹介するErdősによる最初の結果は篩法で得られる双子素数の個数に関する結果を用いてThoerem1の証明をもじった初等的なものです。BombieriとDavenportによる1965年の結果ではHardy-Littlewoodの円周法とBombieri-Vinogradovの平均素数定理が基本的なツールです。Goldston, Pintz, Yıldırımによる2009年の結果では円周法を用いず篩法のみで計算しており、著者の頭文字を取ってGPYの篩などと呼ばれています。ZhangやMaynardによる結果はGPYの篩の手法を継承していますが、特にMaynardの結果は有名です。


Erdősによる(3)の証明

以下、記号等は概ねErdősの原論文に沿って議論します。次が主定理です。

Theorem2

ある c_1>0が存在して
\begin{equation*}
\liminf_{p\to \infty} \frac{p_+-p}{\log p} {<} 1-c_1
\end{equation*}が成立する。

Theorem2の証明に向けて二つ補題を用意します。

Lemma3

ある定数 c_2>0が存在して任意の正整数 aに対して方程式
\begin{equation*}
a=p_i-p_j \quad ( p_i,p_j \le n)
\end{equation*}を満たす素数 p_i,p_jの数は上から
\begin{equation*}< c_2 \prod_{p|a} \left(1+\frac{1}{p}\right) \frac{n}{(\log n)^2}
\end{equation*}と評価できる。

証明 求める方程式の解の個数は
\begin{equation*}
\pi_a(n) = \{ p\le n-a \; | \; p+a : \text{素数} \}
\end{equation*}と書ける。aが奇数のときは p=2しかあり得ないので所望の評価は自明である。 aが偶数のときSelbergの篩 - プライムスのTheorem4から
\begin{equation*}
\pi_a(n) \ll \prod_{2{<}p|a} \frac{p-1}{p-2} \frac{n}{(\log n)^2}
\end{equation*}が成立する。従って
\begin{equation*}
\prod_{2{<}p|a} \frac{p-1}{p-2} \ll \prod_{2{<}p|a} \left(1+\frac{1}{p}\right)
\end{equation*}が得られれば所望の不等式が得られるが、これは
\begin{align*}
\prod_{2 {<} p|a} \frac{(p-1)p}{(p-2)(p+1)} &= \prod_{2{<}p|a} \left( 1+\frac{2}{(p-2)(p+1)}\right) \ll 1
\end{align*}より成立する。(QED)

Lemma4

0{<}c_3{<}1とし
\begin{equation*}
\sum_a' = \sum_{(1-c_3)\log n \le a \le (1+c_3)\log n}
\end{equation*}と書くことにする。このとき c_3が十分小さいければ\begin{equation*}
\sum_a' \prod_{p|a} \left( 1+\frac{1}{p} \right) {<} \frac{1}{6c_2} \log n
\end{equation*}が十分大きい nで成立する。

証明 \mu(d)をMöbius関数として
\begin{align*}
\sum_a' \prod_{p|a} \left( 1+\frac{1}{p} \right) &=\sum_a' \sum_{d|a} \frac{\mu(d)^2}{d} \\
&=\sum_{d \le (1+c_3)\log n} \frac{\mu(d)^2}{d} \sum_{d|a}' 1
\end{align*}が成立。最後の和は
\begin{align*}
\sum_{d|a}'1 = \left[ \frac{(1+c_3)\log n- (1-c_3)\log n}{d} \right] \le \frac{2c_3\log n}{d} +1
\end{align*}なので
\begin{align*}
&\sum_a' \prod_{p|a} \left( 1+\frac{1}{p} \right) \\
&\le 2c_3(\log n) \sum_{d\le (1+c_3)\log n} \frac{\mu(d)^2}{d^2} +\sum_{d\le(1+ c_3)\log n} \frac{\mu(d)^2}{d} \\
\end{align*}一つ目の dの和は収束するので収束値を Dと置く。二つ目の dの和は
\begin{equation*}
\le \log (1+c_3)+\log \log n
\end{equation*}なので結局
\begin{equation*}
\sum_{a}'\prod_{p|a} \left(1+\frac{1}{p}\right) \le \left(2Dc_3 +\frac{\log (1+c_3)+\log \log n}{\log n}\right) \log n
\end{equation*}となる。従って c_3を十分小さくとれば所望の不等式が得られる。(QED)

以上で準備完了です。Theorem2を証明します。

Theorem2の証明 区間 (n/2,n]における素数を小さい順に p_1,\dots, p_xと書く。さらに
\begin{equation*}
b_i = p_{i+1}-p_i \quad (i=1,\dots , x-1)
\end{equation*}と置く。Theorem1の議論と同様にして任意の \varepsilon>0に対して nが十分大なら
\begin{equation}
x >\left(\frac{1}{2}-\varepsilon \right) \frac{n}{\log n} \label{main eq1}
\end{equation}及び
\begin{equation}
\sum_{i=1}^{x-1} b_i < \frac{n}{2} \label{main eq2}
\end{equation}が成立することがわかる。またLemma3,4を用いれば
\begin{equation*}
(1-c_3)\log n\le b_i \le (1+c_3)\log n
\end{equation*}を満たす b_iの数は上から
\begin{equation}
\le \sum_a' c_2 \prod_{p|a} \left(1+\frac{1}{p} \right) \frac{n}{(\log n)^2} \le \frac{n}{6\log n} \label{main eq3}
\end{equation}と評価できる。今 b_iの集合を
\begin{align*}
&A=\{ b_i\; {|} \; b_i \le (1-c_3)\log n \} \\
&B= \{ b_i \; {|} \; (1-c_3)\log n \le b_i \le (1+c_3)\log n \} \\
&C= \{ b_i \; {|} \; b_i > (1+c_3)\log n \}
\end{align*}と三つに互いに素な三つの集合に分ける。もし仮に Aが空集合なら |B| + |C| = x-1なので\eqref{main eq1}と\eqref{main eq3}から
\begin{equation*}
{|}C| = x- |B|- 1> \left(\frac{1}{3}-\varepsilon \right) \frac{n}{\log n} -1
\end{equation*}が成立。従って \varepsilonを十分小さく取れば
\begin{align*}
\sum_{i=1}^{x-1}b_i &= \sum_{b_i \in B} b_i + \sum_{b_i \in C} b_i \\
& > (1-c_3)(\log n) |B| + (1+c_3)(\log n) |C| \\
& = (1-c_3)(\log n) (x-1-|C|) +(1+c_3)(\log n) |C| \\
& = (1-c_3) (x-1) \log n +2c_3(\log n) |C| \\
& > \left (\frac{1}{2} + \frac{c_3}{6} - (c_3+1)\varepsilon - o(1) \right)n > \frac{n}{2}
\end{align*}が十分大きい nで成立。これは\eqref{main eq2}に矛盾する。従って nが十分大なら Aは空集合出ない、つまり
\begin{equation*}
b_i = p_{i+1}-p_i < (1-c_3)\log n
\end{equation*}を満たす b_iが存在する。従って
\begin{equation*}
\liminf_{p\to \infty} \frac{p_+-p}{\log p} < 1-c_3
\end{equation*}がわかる。(QED)

おわりに

もともとはMaynardの結果*2を紹介するつもりだったのですが、Maynardの手法はいくらか予備知識を仮定すれば計算自体は簡単な微積分と線形代数のみで扱うことが出来ます。ただブログとして書き起こすには非常に面倒くさい文量です。そもそもMaynardの論文自体はアクセスが容易なので、それならと思い立ち一番最初の結果を紹介することにしました。このあたりの篩法の計算*3を追えるならMaynardの論文も大体読めると思うので、興味があったらどうぞ。