プライムス

整数論を中心に数学の話題に触れるブログ

自然数をいくつかの自然数の積で表す方法の数について

問題です! \;

6を三つ自然数の積で表す方法はいくつあるでしょうか?(積の順番も考慮してください)

正解は
\begin{align*}
6=&1\cdot 1 \cdot 6,\; 1\cdot 2 \cdot 3,\; 1 \cdot 3 \cdot 2 \\
&1\cdot 6 \cdot 1, \; 2 \cdot 1 \cdot 3, \; 2 \cdot 3 \cdot 1 \\
& 3 \cdot 1 \cdot 2, \; 3 \cdot 2 \cdot 1,\; 6\cdot 1 \cdot 1
\end{align*}の9通りでした!合ってましたか?ということで今回は

自然数 nk個の自然数の積で表示する方法の数

について考えていきたいと思います。



参考文献

(1) 数論入門 I (シュプリンガー数学クラシックス)

(2) 解析的整数論〈1〉素数分布論 (朝倉数学大系)

和を用いた表現

上述の問題を考えるために次の数論的関数を導入します。

定義

数論的関数 \tau_k(n)k=1に対しては

\begin{align}
\tau_1(n)=1(n):=1 \quad (\forall n \in \mathbb{N})
\end{align}
とし、 k\ge 2に対しては
\begin{align}
\tau_k(n)=\sum_{e_1\cdots e_k=n}1
\end{align}と定める。

あきらかに \tau_k(n)は自然数 nk個の自然数の積で表す方法の数を表しています。先の問題は \tau_3(6)=9を意味しています。
定義より k\ge 2なら
\begin{align}
\tau_k(n)=\sum_{e_1\cdots e_{k-1}|n}1
\end{align}が成り立ちます。特に k=2の場合は \tau_2(n)=d(n)となります( d(n)は約数個数関数)ので \tau_k(n)は約数個数関数の一般化にもなっています。*1

以前このブログでDirichletの畳み込み積を紹介しました。
mathnote.info

Dirichletの畳み込み積を用いると \tau_k(n)は簡単に
\begin{align}
\tau_k(n)=\underbrace{1\ast \cdots \ast 1}_{k\mathrm{個}}(n)
\end{align}と表すことができます。畳み込み積は乗法性を保つので、この表示より \tau_k(n)が乗法的な関数であることもわかります。さらにDirichletの畳み込み積の定義よりk\ge 2なら

\begin{align}
\tau_k(n)=1\ast (1\ast \cdots \ast 1)(n)=\sum_{e|n}\tau_{k-1}(e) \label{1}
\end{align}
と帰納的に表すこともできます。

Dirichletの畳み込み積とDirichlet級数の関係を考えればリーマンゼータ関数のべき乗を
\begin{align}
\zeta (s)^k=\sum_{n=1}^{\infty} \frac{\tau_k(n)}{n^s} \label{2}
\end{align}と表すことができます。したがって \tau_k(n)はリーマンゼータ関数ともかかわってくる重要な数論的関数なのです。

上からの評価

\tau_k(n)の上からの評価を与えることができるので紹介します。まず一つ補題を証明します。次の補題が証明できれば式\eqref{1}より帰納的に \tau_k(n)の評価を得ることができます。

補題

任意の \varepsilon>0に対し約数個数関数 d(n)=\tau_2(n)
\begin{align}
d(n) \ll_{\varepsilon}n^{\varepsilon}
\end{align}を満たす。

証明 自然数 n
\begin{align}
n=p_1^{a_1}\cdots p_t^{a_t}
\end{align}と因数分解されているとする。このとき
\begin{align}
d(n)=\prod_{i=1}^t (a_i+1)
\end{align}であるから
\begin{align}
\frac{d(n)}{n^{\varepsilon}} = \prod_{i=1}^t \Big{(}\frac{a_i+1}{p^{\varepsilon a_i}}\Big{)}
\end{align}と表せる。
ここで積を p_i<2^{1/\varepsilon}であるところと p_i \ge 2^{1/\varepsilon}であるところで分割して

\begin{align}
\frac{d(n)}{n^{\varepsilon}} = \prod_{p_i<2^{1/\varepsilon}}\Big{(}\frac{a_i+1}{p_i^{\varepsilon a_i}}\Big{)}\cdot \prod_{p_i\ge 2^{1/\varepsilon}}\Big{(}\frac{a_i+1}{p_i^{\varepsilon a_i}}\Big{)}
\end{align}
と表す。 p \ge 2^{1/\varepsilon},a\ge 1なら
\begin{align}
\frac{a+1}{p^{\varepsilon a}}\le \frac{a+1}{2^a} \le 1
\end{align}であるから
\begin{align}
\frac{d(n)}{n^{\varepsilon}} \le \prod_{p_i<2^{1/\varepsilon}}\Big{(}\frac{a_i+1}{p^{\varepsilon a_i}}\Big{)}
\end{align}と評価できる。任意の素数 pa\ge 1に対し
\begin{align}
p^{\varepsilon a} \ge 2^{\varepsilon a} =e^{\varepsilon a \log 2}\ge \varepsilon a \log 2
\end{align}となるから
\begin{align}
\frac{a+1}{p^{\varepsilon a}}\le \frac{a}{p^{\varepsilon a}}+1 \le \frac{1}{\varepsilon \log 2}+1
\end{align}と評価できる。p <2^{1/\varepsilon}を満たす素数の個数は 2^{1/\varepsilon}以下だから
\begin{align}
\frac{d(n)}{n^{\varepsilon}} = \prod_{p_i<2^{1/\varepsilon}}\Big{(}\frac{1}{\varepsilon \log 2}+1\Big{)} \le \Big{(}\frac{1}{\varepsilon \log 2}+1\Big{)}^{2^{1/\varepsilon}} \ll_{\varepsilon} 1
\end{align}
となり題意が示された。(QED)

この補題より次のような \tau_k(n)の評価が導けます。

定理

任意の \varepsilon>0に対して
\begin{align}
\tau_k(n)\ll_{\varepsilon} n^{\varepsilon}
\end{align}が成立。

証明 帰納法で示す。k=1のときは明らかで k=2のときは補題である。k\ge 2で題意が成立していると仮定する。e|nなら

\begin{align}
\tau_k(e) =\sum_{e_1 \cdots e_{k-1}|e}1 \le \sum_{e_1 \cdots e_{k-1}|n}1=\tau_k(n)
\end{align}
が成立。したがって式\eqref{1}と帰納法の仮定より
\begin{align}
\tau_{k+1}(n) =\sum_{e|n}\tau_k(e) \le \tau_k(n)d(n) \ll_{\varepsilon} n^{\varepsilon}
\end{align}
となる。(QED)


約数和関数について

つづいて約数関数の平均値について考察します。

定義(約数和関数)

\Delta_{k,l}(x)
\begin{align}
\Delta_{k,l}(x)=\sum_{n\le x}\tau_k(n)^l
\end{align}と定義する。これを約数和関数と呼ぶ。

一般に数論的関数 a(n)のDirichlet母関数として定義されるDirichlet級数
\begin{align}
L(s,a)=\sum_{n=1}^{\infty}\frac{a(n)}{n^s}
\end{align}と a(n)の和
\begin{align}
\sum_{n\le x}a(n)
\end{align}には深い関係があります。*2

リーマンゼータ関数の理論に関連して約数和関数 \Delta_{k,l}(x)の挙動を調べる問題は一般に約数問題といわれており、特に k=2,l=1の場合はDirichletの約数問題と呼ばれます。
ここではリーマンゼータ関数と \tau_k(n)の関係式\eqref{2}を応用して約数和関数の評価を証明してみましょう。まずは次の補題を証明します。この補題はそれ自身重要なものです。

補題

任意の k,l\ge 1に対して

\begin{align}
\sum_{n\le x}\frac{\tau_k(n)^l }{n}\ll (\log x)^{k^l} \quad (x\to \infty )
\end{align}
が成り立つ。

証明 和を変形していくと \tau_k(n)の定義式より

\begin{align}
\sum_{n\le x}\frac{\tau_k(n)^l}{n}=\sum_{n\le x}\Big{(}\sum_{e_1\cdots e_k=n}1\Big{)}\frac{\tau_k(n)^{l-1}}{n}=\sum_{\substack{e_1,\dots ,e_k \\ n=e_1 \cdots e_k \le x}}\frac{\tau_k(n)^{l-1}}{n} \label{3}
\end{align}
とかける。ここで任意の k個の自然数 n_1,\dots ,n_kに対し
\begin{align}
\tau_k(n_1\cdots n_k) =\sum_{e_1\cdots e_k=n_1 \cdots n_k}1 \le \prod_{i=1}^k \Big{(}\sum_{e_1\cdots e_k=n_i}1\Big{)}=\prod_{i=1}^k\tau_k(n_i)
\end{align}
が成り立つから式\eqref{3}より
\begin{align}
\sum_{n\le x}\frac{\tau_k(n)^l}{n} \le \sum_{\substack{e_1,\dots ,e_k \\ n=e_1 \cdots e_k \le x}}\prod_{i=1}^k\frac{\tau_k(e_i)^{l-1}}{e_i} \le \Big{(}\sum_{n\le x}\frac{\tau_k(n)^{l-1}}{n}\Big{)}^k \label{4}
\end{align}
と評価できる。不等式\eqref{4}を繰り返し用いれば
\begin{align}
\sum_{n\le x}\frac{\tau_k(n)^l}{n} \le \Big{(}\sum_{n\le x}\frac{1}{n}\Big{)}^{k^l} \ll (\log x)^{k^l}
\end{align}
を得る。(QED)

約数和関数に関しては以下の評価が成立します。

定理

任意の k,l\ge 1に対して

\begin{align}
\Delta_{k,l} (x) \ll x(\log x)^{k^l-1} \quad (x\to \infty )
\end{align}
が成立。

証明
( l=1のとき) このとき定義より

\begin{align}
\Delta_{k,1}(x)=\sum_{n\le x}\tau_k(n)=\sum_{n\le x}\sum_{e|n}\tau_{k-1}(e)
\end{align}
となるので和の順序を変更することで
\begin{align}
=\sum_{e\le x}\sum_{\substack{e|n \\ n\le x}}\tau_{k-1}(e) \ll x\sum_{e\le x}\frac{\tau_{k-1}(e)}{e}
\end{align}
とできる。最後の式は先の補題の l=1の場合から評価できて
\begin{align}
\ll x(\log x)^{k-1}
\end{align}となる。

( l>1のとき) 数論的関数 \tau_k(n)^lのDirichlet母関数を
\begin{align}
L(s,\tau_k^l)=\sum_{n=1}^{\infty}\frac{\tau_k(n)^l}{n^s} \quad (s >1)
\end{align}と置く。先の定理より任意の \varepsilon >0に対して \tau_k(n)^l \ll n^{\varepsilon}であるからこの級数は s>1で広義一様収束する。係数は乗法的であるから L(s,\tau_k^l)はEuler積表示を持っていて、素数 pに対して \tau_k(p)=kとなることに注意すれば

\begin{align}
L(s,\tau_k^l)&=\prod_{p:\mathrm{素数}}\Big{(}1+\frac{\tau_k(p)^l}{p^s}+\frac{\tau_k(p^2)^l}{p^{2s}}+\cdots \Big{)} \notag \\
&= \prod_{p:\mathrm{素数}}\Big{(}1+\frac{\tau_k(p)^l}{p^s}+\sum_{j=2}^{\infty}\frac{\tau_k(p^j)^l}{p^{js}} \Big{)}\notag \\
&= \prod_{p:\mathrm{素数}}\Big{(}1+\frac{k^l}{p^s}+\sum_{j=2}^{\infty}\frac{\tau_k(p^j)^l}{p^{js}} \Big{)}
\end{align}
とかける。この表示から \zeta (s)^{k^l}のEuler積をくくりだすと
\begin{align}
=\zeta (s)^{k^l} \prod_{p:\mathrm{素数}}\Big{(}1-\frac{1}{p^s}\Big{)}^{k^l}\Big{(}1+\frac{k^l}{p^s}+\sum_{j=2}^{\infty}\frac{\tau_k(p^j)^l}{p^{js}} \Big{)} \label{5}
\end{align}
とかける。このとき式\eqref{5}の無限積の部分が s>1/2で絶対収束することが以下のように示せる。

(無限積の収束性) まず任意の  a,b>0に対して
\begin{align}
a\log \Big{(}1-\frac{1}{x} \Big{)} +\log \Big{(}1+\frac{a}{x}+b\Big{)} \notag
\end{align}\begin{align}
\to \log (1+b) >0 \quad (x\to \infty)
\end{align}であるから、素数 pが十分大きければ

\begin{align}
k^l \log \Big{(}1-\frac{1}{p^s}\Big{)}+\log \Big{(}1+\frac{k^l}{p^s}+\sum_{j=2}^{\infty}\frac{\tau_k(p^j)^l}{p^{js}} \Big{)} >0 \label{6}
\end{align}
である。式\eqref{5}の無限積が絶対収束することと(6)の素数 pにわたる無限和が絶対収束することは同値であり、\eqref{6}は不等式
\begin{align}
\log (1-x) &\le -x \quad &&(-1{<}x{<}1)
\end{align}\begin{align}
\log (1+x) &\le x \quad &&(x\ge 0)
\end{align}を用いれば、\eqref{6}より 十分大きいpに対し
\begin{align}
\Big{|}k^l \log \Big{(}1-\frac{1}{p^s}\Big{)}+\log \Big{(}1+\frac{k^l}{p^s}+\sum_{j=2}^{\infty}\frac{\tau_k(p^j)^l}{p^{js}} \Big{)}\Big{|} \le \sum_{j=2}^{\infty}\frac{\tau_k(p^j)^l}{p^{js}}
\end{align}
が成り立つ。先の定理 \tau_k(n)^l \ll n^{\varepsilon}より
\begin{align}
\sum_{p}\sum_{j=2}^{\infty}\frac{\tau_k(p^j)^l}{p^{js}}
\end{align}は s>1/2で収束する。したがって\eqref{5}の無限積は s>1/2で収束することがわかる。

\eqref{5}の無限積を展開すればなんらかしらの h(n)を用いて s>1/2で絶対収束するDirichlet級数
\begin{align}
L(s,h)=\sum_{n=1}^{\infty}\frac{h(n)}{n^s} \quad (s>\frac{1}{2})
\end{align}となり、\eqref{5}は
\begin{align}
L(s,\tau_k^l )=\zeta (s)^{k^l}L(s,h)
\end{align}とかける。Dirichlet級数の積はDirichletの畳み込み積でかけるので、この等式と\eqref{2}より

\begin{align}
\tau_k(n)^l=\tau_{k^l}\ast h(n)=\sum_{m|n}h(m)\tau_{k^l}\Big{(}\frac{n}{m}\Big{)}
\end{align}
が成り立つ。したがって l=1の場合の評価を用いれば
\begin{align}
\Delta_{k,l}(x) &\le \sum_{n\le x}\sum_{m|n}|h(m)|\tau_{k^l}\Big{(}\frac{n}{m}\Big{)} \notag \\
& =\sum_{m\le x}|h(m)|\sum_{\substack{m|n \\ n\le x}}\tau_{k^l}\Big{(}\frac{n}{m}\Big{)}\notag \\
&=\sum_{m\le x}|h(m)|\sum_{n'\le x/m} \tau_{k^l}(n') \quad (\because n=mn')\notag \\
&\ll \sum_{m\le x}|h(m)|\frac{x}{m}\Big{(}\log \frac{x}{m} \Big{)}^{k^l-1} \notag \\
&\le x(\log x)^{k^l-1}\sum_{m\le x}\frac{|h(m)|}{m} \notag \\
& \ll x(\log x)^{k^l-1}
\end{align}
と評価できる。ただし最後は  L(s,h)s=1で絶対収束することを用いた。したがって定理の評価が示された。(QED)

おわりに

約数問題は現在も活発に研究されている問題です。最後は少し複雑になりましたがEuler積の応用として興味深い手法になっていると感じます。



*1:このことより \tau_k(n)は一般約数関数と呼ばれることもあり、著者によっては \tau_k(n)の代わりに d_k(n)を用いることもある。

*2:たとえば ペロンの公式 - Wikipedia など。