プライムス

整数論を中心に数学の話題に触れるブログ

自然数の分割とHardy-Littlewoodの円周法①

解析数論における主要な方法であるHardy-Littlewoodの円周法についてWaring問題を題材にまとめていきます。



参考文献

(1)The Hardy-Littlewood Method (Cambridge Tracts in Mathematics)
円周法の代表的なテキストです。

(2)Linnik’s Proof of the Waring–Hilbert Theorem
後述のHilbertの定理の証明が読めます。
論文URL:https://lup.lub.lu.se/luur/download?func=downloadFile&recordOId=8874794&fileOId=8874796

(3)LECTURE NOTES OF WILLIAM CHEN
William Chen氏によって運営されているブログで公開されているLecture noteです。
URL:http://www.williamchen-mathematics.info/lnhlmfolder/lnhlm.html

自然数の分割とWaringの問題

Hardy-Littlewoodの円周法はWaringの問題Goldbach予想に代表される加法的数論において篩法と並ぶ重要手法です。
この記事では円周法を通して、自然数 n
\begin{align*}
n=m_1^k+ \cdots +m_s^k
\end{align*}と s個の k乗数の和に分割する方法について考えていきます。これは上述のWaringの問題と呼ばれる加法的数論の問題と関連しています。

Waringの問題とは古典的には任意の自然数 kに対して

全ての自然数が s個の自然数の k乗数の和で表せる

を満たす sは存在するか?という問題です。この問題はHilbertにより1909年に解決されました。

Thm1(Hilbert, 1909)

任意の自然数 kに対してある自然数 sが存在して全ての自然数は s個の k乗数の和で表すことができる。

今回はHardy-Littlewoodの円周法を勉強することがメインなのでこの定理の証明は参考文献(2)などを参照してください。

既に解決済みのWaringの問題ですが、現在では以下のように新たに定式化されて活発に研究されています。

Waringの問題(現代版)

自然数 kに対しThm1で存在が保証されている sの最小値を g(k)と置く。g(k)の値を求めよ。

g(k)を求める問題と関連して G(k)

十分大きな全ての自然数が s個の k乗数の和で書ける

を満たす sの最少値と定めます。これら二つの関数 g(k),G(k)の値を求めることが現代版のWaringの問題です。そしてこの関数の値を評価するために有効な手法がHardy-Littlewoodの円周法なのです。

この記事では次の定理を目標に勉強していきます。

Thm2

不等式
\begin{align*}
G(k)\le 2^k+1
\end{align*}が成り立つ。

Vinogradovの着想

Waringの問題について考えるために関連する関数 R(n)=R(n;k,s)を、自然数 k,sに対して
\begin{align*}
R(n)=\# \{(m_1,\dots ,m_s)\in \mathbb{N}^s| n=m_1^k+\cdots +m_s^k \}
\end{align*}と定義します。R(n)ns個の k乗数の和として書く方法の数を表しています。もし仮に s>2^kに対して
\begin{align*}
R(n) \ge 1 \quad (n\to \infty)
\end{align*}を示すことができれば、十分大きな ns個の k乗数の和で表す方法が1通り以上あることがわかるので目標のThm2が従います。
R(n)を調べるためVinogradovは 自然数kに対して関数
\begin{align*}
f(\alpha ):=\sum_{m=1}^N e(\alpha m^k) \quad (\alpha \in \mathrm{R} )
\end{align*}を導入しました。ここで e(\alpha )=\mathrm{exp}(2\pi i \alpha )とし N\in \mathbb{N}とします。f(\alpha )は次のように R(n)と関係します。

Lem3

s\in \mathbb{N}に対して
\begin{align*}
f(\alpha )^s=\sum_{m=1}^{sN^k}R_N(m) e(\alpha m)
\end{align*}が成り立つ。ここで
\begin{align*}
R_N(m)=\# \{ (m_1,\dots ,m_k) | m =m_1^k+\dots + m_s^k, m_i \le N (\forall i ) \}
\end{align*}とする。

証明 f(\alpha )^sを展開すると
\begin{align*}
f(\alpha )^s = \sum_{m_1=1}^N\cdots \sum_{m_s=1}^Ne\big{(}\alpha(m_1^k+\cdots m_s^k)\big{)}
\end{align*}m=m_1^k+\dots +m_s^kと置けば 1\le m \le sN^kであり、各 mが現れる回数は R_N(m)回であるから
\begin{align*}
=\sum_{m=1}^{sN^k}R_N(m)e(\alpha m)
\end{align*}が従う。(QED)

n\in \mathbb{N}に対してLem3をモチベーションに f(\alpha )^sR(n)に関連付けられないか考えます。まず N=[n^{1/k} ] ととることでLem3より
\begin{align}
f (\alpha )^s=\sum_{m=1}^{sn}e(\alpha m) \label{vin1}
\end{align}と書き直すことができます。このとき R_N(m)はその定義より
\begin{align}
R_N(m)=R(m) \quad (m \le n) \label{vin2}
\end{align}が成り立ちます。さらに簡単な積分計算により整数 hに対して
\begin{align}
\int_0^1 e(\alpha h)d\alpha =
\begin{cases}
1 \quad &( h=0)\\
0 \quad &( h\neq 0)
\end{cases}\label{vin3}
\end{align}がわかります。\eqref{vin1}\eqref{vin2}\eqref{vin3}を合わせて次が得られます。

Lem4

自然数 k,s,nに対して N=[n^{1/k}]とし、関数 f(\alpha ),R(m)
\begin{align*}
f(\alpha )= \sum_{m=1}^Ne(\alpha m^k)
\end{align*}\begin{align*}
R(m)=\# \{(m_1,\dots ,m_s)\in \mathbb{N}^s| m=m_1^k+\cdots +m_s^k \}
\end{align*}と定義する。このとき
\begin{align}
R(n)=\int_0^1 f(\alpha )^s e(-\alpha n)d\alpha \label{vin4}
\end{align}が成立。

余談ですが\eqref{vin3}はFourier解析における基本の等式であり\eqref{vin4}は周期1の関数 f(\alpha)^sの第 n Fourier係数になっています。



なぜ"円周法"なのか

これまでの議論では一切"円"は出てきませんでした。それではなぜ"円周法"と呼ばれるのでしょうか。実は上述のVinogradovのアイデアはHardy-Littlewoodの円周法を元に整理したもので、Hardy-Littlewood(及びRamanujan)によりもともと考えられていたものは関数 f(\alpha )の代わりに複素べき級数
\begin{align*}
F(z)=\sum_{m=1}^{\infty}R(m)z^m \quad (|z|<1)
\end{align*}を考察するというものでした。B_{\rho}(0)を半径 0 < \rho <1で原点中心の円とすれば留数定理により
\begin{align*}
R(n)=\int_{B_{\rho} (0)} F(z)z^{-n-1}dz
\end{align*}が成立します。つまり R(n)を円周上の積分として表現することができ、これが円周法の名前の由来となりました。現在ではべき級数の F(z)の代わりにより扱いやすい f(\alpha )が用いられているようです。このような歴史から例えば、区間 (interval)のことを弧(arc)と呼んだりすることがあります。

Huaの補題

比較的簡単に証明できるHuaの補題を示します。証明のためにWeylの不等式と前進差分を用います。Weylの不等式と前進差分などの指数和に関する事実は
mathnote.info
にて紹介していますのでご参照ください。

Lem5(Huaの補題)

kを自然数とし関数 f(\alpha)
\begin{align*}
f(\alpha )=\sum_{m=1}^Ne(\alpha m^k)
\end{align*}と置く。この時 1\le j \le kと任意の \varepsilon >0に対して
\begin{align}
\int_0^1 |f(\alpha )|^{2^j} d\alpha \ll_k N^{2^j-j+\varepsilon} \quad (N\to \infty ) \label{hua1}
\end{align}が成立

証明 jに関する帰納法で証明する。
( j=1のとき) f(\alpha )は周期1でありその第n Fourier係数は
\begin{align*}
c_n=\int_0^1f(\alpha )e(-n\alpha )d\alpha =
\begin{cases}
1 \quad &( n=m^k ,1\le \exists m \le N) \\
0 \quad &(\mathrm{otherwise})
\end{cases}
\end{align*}で与えられる。従って周期1の関数に対するPersevalの等式を用いれば
\begin{align*}
\int_0^1|f(\alpha )|2d\alpha =\sum_{n}|c_n|^2=N
\end{align*}となり主張が従う。

(帰納法のStep) 今、1\le j \le k-1なるある jに対して\eqref{hua1}が成立していると仮定する。以下二つの方法で関数 |f(\alpha )|^{2^j}を評価する。

(一つ目の方法) 実関数 \phi (x)に対して
\begin{align*}
T(\phi ; N)=\sum_{m=1}^Ne\big{(}\phi (m)\big{)}
\end{align*}と定める。ここで実数 \alphaに対し \phi (x)=\alpha x^kと取れば
\begin{align*}
f(\alpha )=T(\phi , N)
\end{align*}と表現することができる。指数和に関するWeylの不等式 - プライムスのProp4で計算したように、j個の実数 h_1,\dots ,h_jに対する \phi (x)j回前進差分は
\begin{align*}
\Delta_j (\alpha x^k ; h_1,\dots ,h_j )=\alpha h_1\cdots h_j p_j(x; h_1,\dots ,h_j)
\end{align*}と書くことができる。ここで p_j (x;h_1,\dots ,h_j)は係数が h_1,\dots ,h_jから定まる xの 整数係数k-j次多項式である。したがって指数和に関するWeylの不等式 - プライムスのLem5(Weylの補題)を用いれば、ある区間の族 I_j=I_j(h_1,\dots ,h_j) \subset [ 1,N ]が存在して
\begin{align}
&{|}f(\alpha )|^{2^j}=|T(\phi ; N)|^{2^j}\notag \\
&\ll N^{2^j-j-1} \sum_{\substack{h_1,\dots ,h_j \\ |h_i|{<}N \; (\forall i) }}\sum_{x \in I_j} e\big{(}\alpha h_1\cdots h_j p_j(x; h_1,\dots ,h_j)\big{)} \notag \\
&= N^{2^j-j-1}\sum_{h\in \mathbb{Z}}\rho (n) e(\alpha h) \label{hua2}
\end{align}と評価できる。ここで  \rho (h)は整数 h
\begin{align*}
h=h_1\cdots h_j p_j (x ; h_1,\dots ,h_j), |h_i | {<}N \; (\forall i) ,x\in I_j
\end{align*}と表現する方法の数を表している。1変数多項式 p_jxを代入したとき、同じ値が現れる回数は高々 O_k(1)回である。さらに与えられた整数 hh=h_1\cdots h_{j+1}と分解したときの各 h_iの正負の符号の選び方も高々 O_k(1)個である。したがって一般約数関数 d_{j+1}(h)に対して成立する評価*1\begin{align*}
d_{j+1}(h) \ll h^{\varepsilon/2k} \quad (h \in \mathbb{N})
\end{align*}を合わせれば
\begin{align}
\rho (0) \ll N^j, \rho (h) \ll h^{\varepsilon/2k} \ll N^{\varepsilon} \; (h\neq 0) \label{hua3}
\end{align}と評価できる。ここで最後の不等式は p_jが定義から 1\le x,h_i \le Nにおいて一様に p_j(x;h_1,\dots ,h_j) \ll N^kと評価できることから上述の和が h \ll N^{2k}の上を走ることより従う。

(二つ目の方法) 複素共役を用いて
\begin{align*}
{|}f(\alpha )|^{2^j}=|f( \alpha)|^{2^{j-1}\cdot 2}=f(\alpha )^{2^{j-1}}f(-\alpha )^{2^{j-1}}
\end{align*}として右辺を展開すると
\begin{align}
= \sum_{h}\sigma (h) e(\alpha h) \label{hua4}
\end{align}と表せる。ここで \sigma (h)
\begin{align*}
h=m_1^k+\cdots +m_{2^{j-1}}^k-l_1^k-\cdots -l_{2^{j-1}}^k \quad (1\le m_i,l_i \le N)
\end{align*}と表示する方法の数である。\eqref{hua4}に \alpha=0を代入することで
\begin{align}
\sum_{h}\sigma (h) = f(0)^{2^j}=N^{2^j} \label{hua5}
\end{align}が得られ、さらに\eqref{vin3}と帰納法の仮定により
\begin{align}
\sigma (0)=\int_0^1|f(\alpha )|^{2^j}d\alpha \ll N^{2^j-j+\varepsilon} \label{hua6}
\end{align}が得られる。

(帰納法の結論) \eqref{vin3}に注意して \eqref{hua2}及び \eqref{hua4}を用いれば
\begin{align*}
\int_0^1|f (\alpha )|^{2^{j+1}}d\alpha&=\int_0^1|f( \alpha )|^{2^j}| \overline{f( \alpha )}|^{2^j}d\alpha \\
&\ll N^{2^j-j-1}\Big{(}\rho (0) \sigma (0) + \sum_{h \neq 0} \rho (h) \sigma (h)\Big{)}
\end{align*}と評価できる。これに\eqref{hua3} \eqref{hua5} \eqref{hua6}を代入すれば帰納法の仮定の下で
\begin{align*}
\ll N^{2^{j+1}-(j+1)+\varepsilon}
\end{align*}が得られる。以上よりLem5の主張が証明された。(QED)

おわりに

次回「Major arcとMinor arc」につづく