プライムス

大学院生の数学ノート

リーマンゼータ関数の関数等式を証明する

リーマンゼータ関数は素数の分布を調べる際に最も重要な関数の一つです。そしてリーマンゼータ関数を調べるための強力な武器が関数等式です。
今回はリーマンゼータ関数の関数等式

\begin{align}
\pi^{-s/2}\Gamma \Big{(}\frac{s}{2}\Big{)}\zeta (s) = \pi^{-(1-s)/2}\Gamma \Big{(}\frac{1-s}{2}\Big{)}\zeta (1-s) \notag
\end{align}
を証明します。



参考文献

(1) リーマンのゼータ関数 (開かれた数学)

(2) Multiplicative Number Theory (Graduate Texts in Mathematics 74)

リーマンゼータ関数の定義

ここではリーマンのゼータ関数を定義しその性質を簡単に紹介します。

以下複素数 sの実部を \sigma、虚部を tで表します。独特な表記ですがこれは解析数論の場でよく用いられていてLandauの記法で有名なEdmund Landauに由来するそうです。

さて、\sigma >1なる複素数 sに対して
\begin{align}
\zeta (s)=\sum_{n=1}^{\infty}\frac{1}{n^s} \label{1}
\end{align}と定義しこれをリーマンゼータ関数と言います。
\zeta (s)s\in \mathbb{R}のときはEulerによってよく調べられていて、s=1で発散することは調和級数の発散として古くから知られていました。

関数等式はBernhart Riemannの論文「与えられた数より小さい素数の個数について - Wikipedia」において初めて証明されました。関数等式にフォーカスを当てるとこの論文には

  • \zeta (s)を初めて複素関数として扱った
  • \zeta (s) \sigma \le 1に対しても定義(解析接続)した
  • \zeta (s)\zeta (1-s)の値の関係式である関数等式を二通りの方法で証明した

といったことが書かれています。
もし \sigma<0なら 1-\sigma >1となります。リーマンゼータ関数は\sigma >1のときは絶対収束する級数表示\eqref{1}から簡単に計算できます。したがって関数等式とはリーマンゼータ関数のよくわからない \sigma <0での値を簡単な \sigma >1の値から計算できることを意味しています。
ちなみに0\le \sigma \le 1のときは 0 \le 1-\sigma \le 1となってしまいますので級数表示は使えません。これが理由で 0 \le \sigma \le 1における \zeta (s)の振る舞いは調べるのが難しく、この帯領域には特別にcritical stripという名前がついています。

今回この記事では有名な証明の一つであるRiemannの第二証明と呼ばれる手法で関数等式を証明します。

ガンマ関数

関数等式に出てくるガンマ関数と証明で必要な公式について簡単に紹介します。

まずガンマ関数とは \sigma >0なる複素数 sに対して
\begin{align}
\Gamma (s)=\int_0^{\infty}e^{-x}x^{s-1} \; dx \notag
\end{align}で定義される正則関数です。ガンマ関数は簡単にその定義域を \mathbb{C}上に広げることができます。

補題(ガンマ関数の解析接続)

ガンマ関数は s=0,-1,-2,\dotsを除く \mathbb{C}上に解析接続される。除かれた点はガンマ関数の単純極となり非負整数 nに対して s=-nでの留数は (-1)^n/(n!)となる。

証明 \Gamma (s+1)の定義式を部分積分することにより
\begin{align}
\Gamma (s)=\frac{\Gamma (s+1)}{s} \quad (\sigma >0) \notag
\end{align}が成立することがわかる。この右辺は明らかに s=0を除いて \sigma {>} -1 で正則である。したがってこの右辺は \Gamma (s)\sigma {>}-1への解析接続を与え、さらに s=0\Gamma (s)の単純極になることがわかる。さらに \Gamma (s+2)=(s+1)\Gamma (s+1)であるからこれを(2)に代入して
\begin{align}
\Gamma (s)=\frac{\Gamma (s+2)}{s(s+1)}\notag
\end{align}を得るが、同様にこの式は \Gamma (s)\sigma >-2への解析接続を与え s=-1が単純極であることもわかる。この議論を繰り返すことで、非負整数 nに対してガンマ関数の \sigma > -n-1への解析接続を
\begin{align}
\Gamma(s)=\frac{\Gamma (s+n+1)}{s(s+1)\cdots (s+n)} \notag
\end{align}というように得ることができる。この式から明らかに極が単純極であることがわかり、\Gamma (1)=1より留数も容易に計算できる。(QED)

もう一つ重要な性質にガンマ関数は零点を持たないというものがあります。これはガンマ関数の無限積表示からわかることですが長くなるのでここでは割愛します。

ガンマ関数がリーマンゼータ関数とつながる理由を説明します。\Gamma (s/2)の定義の積分変数を自然数 nに対して x \to n^2\pi xと置き換えてみると

\begin{align}
\Gamma \Big{(}\frac{s}{2}\Big{)}=n^s \pi ^{s/2}\int_0^{\infty}e^{-n^2\pi x }x^{s/2-1} \; dx\notag
\end{align}
となります。両辺 n^s\pi^{s/2}で割って自然数 nについて足し合わせればリーマンゼータ関数の定義式\eqref{1}より \sigma >1に対して
\begin{align}
\pi^{-s/2}\Gamma\Big{(}\frac{s}{2}\Big{)} \zeta (s) =\int_0^{\infty}x^{s/2-1}\sum_{n=1}^{\infty}e^{-n^2\pi x }\; dx \label{3}
\end{align}
となります。この式によってリーマンゼータ関数とガンマ関数がつながります。この左辺は関数等式の左辺と一致するので右辺を調べていけばよさそうですね。そこでこの式の右辺の和の部分を \omega (x)とおいて\eqref{3}を
\begin{align}
\pi^{-s/2}\Gamma\Big{(}\frac{s}{2}\Big{)} \zeta (s) =\int_0^{\infty}x^{s/2-1}\omega (x) \; dx \label{4}
\end{align}
と書き換えておきます。

キー公式

\omega (x)を調べるために次の補題を用います。

補題1

任意の x {>}0に対して

\begin{align}
\sum_{n\in \mathbb{Z}} e^{-n^2\pi /x}= x^{1/2}\sum_{n\in \mathbb{Z}} e^{-n^2\pi x} \notag
\end{align}
が成立。

この補題は以下の記事で証明しました。

mathnote.info

この補題を使うと簡単に \omega (x)の関係式を得ることができます。この公式をキーとしてリーマンゼータ関数の関数等式が示されます。

補題2

任意の x {>}0に対して

\begin{align}
\omega \Big{(} \frac{1}{x}\Big{)}=-\frac{1}{2}+\frac{1}{2}x^{1/2}+x^{1/2}\omega (x) \notag
\end{align}
が成り立つ。

証明 関数 \nu (x)
\begin{align}
\nu (x)=\sum_{n\in \mathbb{Z}}e^{-n^2\pi x} \notag
\end{align}と置けば \nu (x) = 1+ 2\omega (x)となるので x1/xに置き換えれば
\begin{align}
\nu \Big{(}\frac{1}{x}\Big{)} =1+2\omega \Big{(} \frac{1}{x} \Big{)} \notag
\end{align}を得る。補題1は \nu (x)を使って
\begin{align}
\nu \Big{(} \frac{1}{x} \Big{)}=x^{1/2}\nu (x) \notag
\end{align}と表すことができるのでこれらの式を合わせて
\begin{align}
\omega \Big{(} \frac{1}{x} \Big{)} &= -\frac{1}{2} +\frac{1}{2}\nu \Big{(} \frac{1}{x} \Big{)} \notag \\
&= -\frac{1}{2}+\frac{1}{2}x^{1/2}\nu(x) \notag \\
&=-\frac{1}{2}+\frac{1}{2}x^{1/2}+x^{1/2}\omega (x) \notag
\end{align}となる。(QED)



関数等式の証明

以上で準備が完了しました。リーマンゼータ関数の関数等式を証明しましょう。正確な主張は以下の通りです。

定理(リーマンゼータ関数の関数等式)

リーマンゼータ関数 \zeta (s)s=1を除いて \mathbb{C}上に解析接続され、s=1は留数1の単純極となる。さらに任意の s \in\mathbb{C}に対して等式

\begin{align}
\pi^{-s/2}\Gamma \Big{(}\frac{s}{2}\Big{)}\zeta (s) = \pi^{-(1-s)/2}\Gamma \Big{(}\frac{1-s}{2}\Big{)}\zeta (1-s) \notag
\end{align}
が成り立つ。

証明 まず \sigma >1のとき式\eqref{4}を

\begin{align}
&\pi^{-s/2}\Gamma\Big{(}\frac{s}{2}\Big{)} \zeta (s) \notag \\
&=\int_0^1x^{s/2-1}\omega (x)\; dx+\int_1^{\infty}x^{s/2-1}\omega (x)\; dx \label{5}
\end{align}
と変形する。右辺の一つ目の積分は変数を x\to 1/xと変換して補題2を用いれば
\begin{align}
\int_0^1x^{s/2-1}\omega (x) \; dx&=\int_1^{\infty} x^{-s/2-1}\omega \Big{(} \frac{1}{x} \Big{)} \; dx \notag \\
&= \int_1^{\infty} \Big{(}-\frac{x^{-s/2-1}}{2}+\frac{x^{-(s+1)/2}}{2}\Big{)}\; dx\notag \\ &\quad +\int_1^{\infty}x^{-(s+1)/2}\omega (x)\; dx \label{6}
\end{align}を得る。\eqref{6}の一つ目の積分は計算すると \sigma >1より
\begin{align}
\int_1^{\infty} \Big{(}-\frac{x^{-s/2-1}}{2}+\frac{x^{-(s+1)/2}}{2}\Big{)}\; dx =\frac{1}{s(s-1)} \notag
\end{align}
となるので\eqref{6}は
\begin{align}
=\frac{1}{s(s-1)}+\int_1^{\infty}x^{-(s+1)/2}\omega (x)\; dx \notag
\end{align}となる。これを\eqref{5}に代入すれば
\begin{align}
&\pi^{-s/2}\Gamma \Big{(}\frac{s}{2}\Big{)}\zeta (s) \notag \\
&=\frac{1}{s(s-1)}+\int_1^{\infty}(x^{-(s+1)/2}+x^{s/2-1})\omega (x)\; dx \label{7}
\end{align}を得る。ここで \omega (x)の大きさを見積もってみると
\begin{align}
\omega (x) \le \sum_{n=1}^{\infty} \Big{(}e^{-\pi x}\Big{)}^n = \frac{1}{e^{\pi x}-1} \ll e^{-\pi x} \notag
\end{align}
と言えるので\eqref{7}の右辺の積分は \sigma の大きさによらずに絶対収束する。\eqref{7}の第一項は明らかに s=0,1を除いて正則である。したがって\eqref{7}の右辺は s=0,1を除いて \mathbb{C}上で正則となりこれは関数 \pi^{-s/2} \Gamma(s/2) \zeta (s)の解析接続を与える。ガンマ関数は前述の補題において解析接続が与えられたので、これよりリーマンゼータ関数が解析接続が得られた。式\eqref{7}において右辺の極 s=0\Gamma (s/2)s=0での極と打ち消しあう。したがって\eqref{7}よりリーマンゼータ関数の極は s=1のみであり、さらにそれが単純かつ \Gamma (1/2)=\sqrt{\pi }より留数が1であることも容易に計算できる。残るは関数等式のみであるが、これは\eqref{7}に 1-sを代入すればその成立を確かめることができる。(QED)

関数等式から簡単にわかること

関数等式が証明できたので観察してみましょう!関数等式によってcritical strip以外の情報を得ることができます。
まずリーマンゼータ関数はEuler積表示
\begin{align}
\zeta (s)=\prod_{p:\mathrm{素数}} \frac{1}{1-p^{-s}} \quad (\sigma >1) \notag
\end{align}を持っています。無限積は収束するなら0にはならないのでリーマンゼータ関数は \sigma >1では零点を持たないことがわかります。そこで関数等式を眺めてみます。
\begin{align}
\pi^{-s/2}\Gamma \Big{(}\frac{s}{2}\Big{)}\zeta (s) = \pi^{-(1-s)/2}\Gamma \Big{(}\frac{1-s}{2}\Big{)}\zeta (1-s) \notag
\end{align}
上述のガンマ関数の補題を合わせると関数等式の両辺に関して

  • 左辺は s=1s=0,-2,-4,\dots で単純極を持つ
  • 左辺は \sigma >1で零点を持たない
  • 右辺は s=0s=1,3,5,\dotsで単純極を持つ
  • 右辺は \sigma <0で零点を持たない

ことがわかります。しかし関数等式は等式ですから両辺の極と零点の位置は一致していなければなりません。したがって例えば左辺に注目して、右辺とずれている極を打ち消すためには
\begin{align}
\zeta (s)=0 \quad (s=-2,-4,-6,\dots ) \notag
\end{align}とならなければいけないことがわかります。さらに右辺は s=-2,-4,-6,\dotsで零点を持たないので、これらはリーマンゼータ関数の1位の零点となることがわかります。 この零点はリーマンゼータ関数の自明な零点と呼ばれています。
一方で、もし \sigma <0であって \zeta (s)=0となる複素数 sが存在するなら関数等式の左辺が0にならなければなりません。しかし関数等式の右辺は \sigma <0で零点を持たないので矛盾します。したがってリーマンゼータ関数は \sigma <0で零点を持たないことがわかります。
以上の議論をまとめておきます。

定理(リーマンゼータ関数の零点分布)

リーマンゼータ関数は負の偶数において1位の零点を持ち、それらをリーマンゼータ関数の自明な零点と呼ぶ。もし非自明な零点が存在するなら、それらはすべてcritical strip 0 \le \sigma \le 1の上にある。

そうして現れたのがRiemann予想です。

未解決問題(Riemann予想)

リーマンゼータ関数の非自明な零点はすべて \sigma =1/2を満たす。

リーマンゼータ関数の非自明な零点が集中しているであろう直線 \sigma =1/2はcritical lineと呼ばれます。既にRiemannによる予想の発表から160年がたちますがいまだに解決していません。

おわりに

Riemann予想はその系として多種多様な結果を導くことが知られており一刻も早く解かれることが望まれています。Riemann予想を目指したリーマンゼータ関数の研究は現在では膨大に膨れ上がっていますが、参考文献(1)ではその研究を浅く広く俯瞰することができるので興味のある方は一読をおすすめします。